創業時の資金計画では、店舗、設備、仕入れ、広告費などの事業資金に目が向きがちです。しかし、創業者自身の生活費を見込まないまま開業すると、売上が安定する前に生活が苦しくなり、冷静な経営判断がしにくくなります。
事業を続けるには、事業のお金と生活のお金を分けて考えることが必要です。この記事では、個人事業主の生活費、法人の役員報酬、借入返済後の手元資金まで含めて、現実的な資金計画を作る考え方を整理します。
このページでわかること
- 事業資金だけで創業すると危ない理由
- 生活費を資金計画に入れる考え方
- 個人事業主と法人で生活費の見方が変わる点
- 売上が低い時期にも判断を誤らないための確認方法
生活費を見ない資金計画は危ない
創業前は、内装費、設備費、仕入れ、広告費、ホームページ制作費など、事業に直接かかるお金を考えることが多くなります。
しかし、創業者自身も生活しなければなりません。
家賃、食費、保険、教育費、車、通信費、ローン返済、家族の支出。これらを考えずに開業すると、事業が軌道に乗る前に生活費が不足する可能性があります。
生活が苦しくなると、経営判断も乱れます。
- 本来必要な広告費を削りすぎる
- 焦って安売りをする
- 条件の悪い仕事を受けてしまう
- 追加借入に頼りすぎる
- 家族との関係が悪くなる
- 体調を崩して事業継続が難しくなる
生活費を資金計画に入れることは、ぜいたくではありません。経営者が冷静に判断するための土台です。
事業資金と生活費を分けて書き出す
最初に、事業資金と生活費を分けて書き出します。
混ぜて考えると、開業時に使えるお金を多く見積もりすぎたり、生活に必要なお金を事業に使い切ったりしやすくなります。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 設備資金 | 物件取得、内装、機械、車両、什器、備品、Web制作 |
| 運転資金 | 仕入れ、人件費、家賃、広告費、水道光熱費、通信費 |
| 予備資金 | 売上不足、追加費用、入金遅れへの備え |
| 生活費 | 住宅費、食費、保険、教育費、通信費、家計の返済 |
資金計画では、必要な資金と調達する資金の合計を一致させます。そこに生活費も別枠で確認しておくと、開業後の資金不足に気づきやすくなります。
事業資金の整理は 資金計画 と合わせて行います。
何か月分の生活費を確保するか考える
開業直後から売上が安定するとは限りません。
創業当初は、認知が少なく、集客に時間がかかることがあります。売上はあっても、入金が後になる場合もあります。
そのため、生活費は月額だけでなく、何か月分を確保するかで考えます。
| 確認すること | 書き出す内容 |
|---|---|
| 毎月の最低生活費 | 家計として最低限必要な金額 |
| 売上が少ない期間 | 何か月続いても耐えられるか |
| 家族の収入 | 他の収入でどこまで支えられるか |
| 貯蓄 | 事業に使わず残す生活資金 |
| 削れる支出 | 一時的に見直せる家計支出 |
「何か月分が正解」と一律には言えません。業種、家族構成、固定費、借入、売上の立ち上がりによって変わります。
大切なのは、生活費を見ないまま開業しないことです。控えめな売上でも生活できるかを確認します。
個人事業主は生活費を経費と混同しない
個人事業主の場合、事業のお金と生活のお金が近くなります。
ただし、生活費は事業の経費ではありません。家計の支出と事業経費を混ぜると、利益や資金繰りが見えにくくなります。
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| 事業の売上 | 商品やサービスで得た収入 |
| 事業の経費 | 仕入、家賃、人件費、広告費など事業に必要な費用 |
| 利益 | 売上から経費を差し引いた金額 |
| 生活費 | 利益からまかなう家計の支出 |
| 手元資金 | 利益から返済や生活費を引いた後に残るお金 |
収支計画では、利益が出ているかだけでなく、生活費を差し引いても資金が残るかを見ます。
たとえば、月の利益が30万円でも、生活費が25万円、借入返済が10万円なら、手元資金は不足します。
手元に残るお金 = 利益 - 借入返済 - 生活費
この考え方は 収支計画 とつなげて確認します。
法人は役員報酬と社会保険も考える
法人を設立する場合は、創業者が会社から役員報酬を受け取る形になります。
役員報酬は、生活費の原資になる一方で、会社側の人件費にもなります。社会保険料の負担も関係します。
| 法人で確認すること | 内容 |
|---|---|
| 役員報酬 | 毎月いくら受け取るか |
| 会社の資金繰り | 役員報酬を払っても資金が残るか |
| 社会保険料 | 会社負担と本人負担がある |
| 税務 | 役員報酬の決め方や変更には注意が必要 |
| 生活費 | 手取りで家計をまかなえるか |
法人の場合、役員報酬を自由に毎月変えればよいわけではありません。税務や社会保険の扱いが関係するため、税理士や専門家に確認します。
ここでも大事なのは、会社のお金と個人の生活費を分けて見ることです。
売上が低い場合の生活を先に考える
資金計画では、標準の売上だけでなく、低い売上の場合も見ます。
開業直後は、計画より売上が少ないことがあります。控えめな売上でも、事業と生活が持つか確認します。
| シナリオ | 確認すること |
|---|---|
| 標準売上 | 計画どおりなら利益と生活費をまかなえるか |
| 売上7割 | 少し低い売上でも資金が足りるか |
| 売上5割 | 厳しい場合に何か月耐えられるか |
| 売上ゼロに近い月 | 開業直後や休業時の備えはあるか |
売上が低い場合の確認は、悲観的になるためではありません。早めに手を打つためです。
たとえば、生活費が足りないなら、開業時期を見直す、副業期間を延ばす、固定費を下げる、規模を小さく始める、家族と相談するなどの選択肢があります。
創業前なら、まだ計画を変えられます。
家族とも資金計画を共有する
生活費を含む資金計画は、家族にも関係します。
特に、退職して創業する場合、借入をする場合、収入が不安定になる場合は、早めに共有しておくことが大切です。
| 家族と話すこと | 内容 |
|---|---|
| 開業までに使うお金 | 事業資金と生活費の区分 |
| 売上が安定するまでの期間 | 何か月を見込むか |
| 家計の見直し | 一時的に減らせる支出 |
| 借入への考え方 | 返済額、返済期間、不安な点 |
| 見直す基準 | どの状態なら計画を変えるか |
家族に心配をかけたくないからと、良い話だけをすると、後で不信感につながることがあります。
事業の夢だけでなく、生活の現実も話すことが、創業準備の大切な一部です。
まず毎月の最低生活費を書き出す
今日やることは、資金計画を完成させることではありません。
まず、毎月の最低生活費を書き出してください。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 住居費 | |
| 食費 | |
| 水道光熱費 | |
| 通信費 | |
| 保険・年金 | |
| 教育費 | |
| 車・交通費 | |
| ローン返済 | |
| その他 | |
| 合計 |
次に、その生活費を何か月分残すかを考えます。
創業は、事業だけでなく生活も含めた判断です。生活費を見える化することで、焦りからの安売りや無理な借入を避けやすくなります。