新規開業では、「まだ実績がないから安くしよう」と考えたくなることがあります。最初に試してもらうための価格設計は必要ですが、自信のなさだけで安売りを始めると、売れても利益が残らない事業になりやすくなります。
価格は、原価に少し利益を乗せるだけで決めるものではありません。お客さんが受け取る価値、競合との違い、必要な利益、固定費、将来の値上げの難しさまで含めて考える必要があります。
このページでわかること
- 新規開業で安売りに頼りすぎるリスク
- 価格を原価だけで決めてはいけない理由
- 価値、顧客層、採算ラインから価格を考える方法
- 割引やモニター価格を使うときの注意点
安くすれば売れるとは限らない
創業時は、早くお客さんに来てほしい気持ちが強くなります。
そのため、「安ければ来てもらえる」「まずは安くして知ってもらおう」と考えがちです。しかし、安さだけで選ばれたお客さんは、次にもっと安い競合が出ると離れやすくなります。
また、安くした結果、利益が残らなければ事業は続きません。売上はあるのに資金繰りが苦しい、忙しいのに手元にお金が残らない、価格を上げたいのに既存客の反応が怖くて上げられない。こうした状態は創業期に起こりやすい失敗です。
安売りがすべて悪いわけではありません。問題は、目的や期限を決めずに、創業者の不安から価格を下げてしまうことです。
価格は原価だけでなく価値から考える
価格設定では、原価や仕入れ値は重要です。しかし、原価だけで価格を決めると、お客さんが受け取る価値を見落とします。
お客さんは、商品そのものだけでなく、安心、時短、失敗しにくさ、説明のわかりやすさ、相談しやすさ、体験の良さにもお金を払います。
| 価格を考える視点 | 確認すること |
|---|---|
| 原価 | 仕入、材料、外注、包装、手数料はいくらか |
| 経費 | 家賃、人件費、広告費、システム費をまかなえるか |
| 価値 | お客さんは何に満足し、何が楽になるか |
| 競合 | 競合より高い理由、安い理由を説明できるか |
| 顧客層 | ターゲットが納得して払える価格か |
| 利益 | 続けるために必要な利益が残るか |
たとえば、同じ商品でも、説明が丁寧で選びやすい、予約が簡単、アフターフォローがある、専門性が高いといった要素があれば、単純な原価比較だけでは価格を決められません。
価格は、顧客にとっての価値を言葉にしたうえで決める必要があります。
自信のなさから価格を下げない
創業者が価格を下げすぎる理由の1つは、自信のなさです。
「自分はまだ有名ではない」「実績が少ない」「高いと言われたら怖い」と感じると、本来必要な価格より低くしてしまうことがあります。
しかし、価格を下げる前に確認したいことがあります。
| 不安 | 価格を下げる前に確認すること |
|---|---|
| 実績が少ない | 実績以外の証拠や説明を用意できないか |
| 高いと言われそう | 誰にとって高いのか、ターゲットは合っているか |
| 競合より高い | 競合と違う価値を説明できているか |
| 初回利用が不安 | 初回説明、体験、保証、FAQで不安を減らせないか |
| 申込が少ない | 価格ではなく導線や発信が弱い可能性はないか |
価格を下げるのは簡単ですが、一度下げた価格を上げるのは簡単ではありません。
創業時から安さを前面に出すと、「安いから買う」お客さんが集まりやすくなります。価値で選ばれたいなら、価格を下げる前に、価値の伝え方を見直すことが必要です。
採算ラインを知らない価格は危ない
価格設定では、「いくらなら売れそうか」だけでなく、「いくらなら事業が続くか」を見ます。
採算ラインを確認せずに価格を決めると、売れても赤字になることがあります。
| 確認する数字 | 内容 |
|---|---|
| 1個あたりの原価 | 仕入、材料、包装、手数料など |
| 1件あたりの作業時間 | 接客、制作、配送、事務作業の時間 |
| 毎月の固定費 | 家賃、人件費、通信費、広告費、リース料など |
| 必要な利益 | 借入返済、生活費、予備資金に回せる金額 |
| 必要な販売数 | その価格で何個、何件売る必要があるか |
たとえば、1件あたりの利益が少ないサービスを低価格で大量に売る場合、集客と対応に大きな負担がかかります。逆に高単価にする場合は、価値の説明、信頼材料、対象顧客の明確化が必要です。
価格は、収支計画 や 損益分岐点 と必ずつなげて確認します。
割引やモニター価格には期限と目的を決める
創業前後に、モニター価格やオープン記念価格を使うことはあります。
ただし、割引には目的と期限を決めます。
| 割引の目的 | 設計のポイント |
|---|---|
| 体験してもらう | 対象者、人数、期間を限定する |
| 顧客の声を集める | 感想の取り方、掲載許可を決める |
| 初期の改善点を知る | アンケートやヒアリングをセットにする |
| 認知を広げる | 紹介導線や次回利用の案内を用意する |
| 予約を作る | 通常価格へ戻す時期を決める |
割引をするなら、「なぜ安いのか」を明確に伝えます。
たとえば、「開業前モニターとして、感想をいただける方に限り〇名まで」と説明すれば、通常価格とは別の目的があることが伝わります。
一方で、何となく安くしてしまうと、その価格が基準になります。通常価格に戻すときに「値上げ」と受け取られやすくなります。
価格表は提供範囲まで明確にする
価格設定では、金額だけでなく、何が含まれるかを明確にします。
同じ5,000円でも、含まれる内容が違えば価値は変わります。
| 価格表で明確にすること | 例 |
|---|---|
| 基本料金 | 商品、サービス、相談、施術などの基本範囲 |
| 含まれるもの | 時間、回数、材料、資料、フォロー |
| 含まれないもの | 追加作業、出張費、送料、オプション |
| 追加料金 | 延長、カスタマイズ、急ぎ対応 |
| 支払い条件 | 前払い、当日払い、月額、キャンセル料 |
価格だけを低く見せても、後から追加料金が多いと不信感につながります。
逆に、提供範囲が明確であれば、お客さんは比較しやすくなります。高い価格でも、何が含まれているかがわかれば納得されやすくなります。
まず通常価格と最低ラインを分けて書く
今日やることは、完璧な価格表を作ることではありません。
まず、主力商品やサービスを1つ選び、次の2つの価格を書き出してください。
| 価格 | 意味 |
|---|---|
| 通常価格 | 価値、顧客層、競合、利益を踏まえて本来設定したい価格 |
| 最低ライン | 原価、経費、時間、利益を考えると下回ってはいけない価格 |
この2つを分けると、安易な値引きを避けやすくなります。
価格は、勇気だけで決めるものではありません。顧客が受け取る価値、競合との違い、採算ライン、創業者の生活まで見て決めるものです。
収益の仕組み全体を見たい人は ビジネスモデル、利益や返済後の手元資金を確認したい人は 収支計画、採算ラインを計算したい人は 損益分岐点 へ進んでください。