創業準備ガイド

経営理念は、立派なスローガンを作るためのものではありません。迷ったときに判断へ戻れる言葉を持つために作ります。

このページでは、ミッション、ビジョン、バリューの3つに分けて、創業者自身の言葉で経営理念を整理します。

このページでわかること

  • 経営理念を明確にする意味と創業期に必要な理由
  • ミッション・ビジョン・バリューの違い
  • アイデア整理のWILL・CAN・NEEDを理念へつなげる方法
  • 関係者に伝わり、創業計画書に書ける形への整え方

経営理念を明確にする意味

経営理念は、自分の事業が何のために存在するのかを明らかにする言葉です。

創業したばかりの事業は、知名度、実績、店舗規模、広告量では既存の事業者に負けることが多くあります。そのときに大切になるのが、「なぜこの事業をやるのか」「誰にどんな価値を届けるのか」「何を大切にして運営するのか」を伝えることです。

経営理念があると、関係者がその事業を理解しやすくなります。

関係者経営理念があることで伝わること
顧客その店やサービスを選ぶ理由
家族・協力者創業者が何を目指しているか
金融機関・支援機関事業の方向性と継続する意思
取引先どんな姿勢で事業を進める相手か
スタッフ候補何に共感して働くのか

経営理念は、対外的な説明だけでなく、創業者自身の迷いを減らす役割もあります。やることが増えたとき、どの顧客を大切にするのか、どの商品を伸ばすのか、どんな仕事を引き受けるのかを判断する基準になります。

経営理念を判断軸として、商品、取引、顧客、採用などの判断に立ち返る図
迷ったときほど、経営理念を判断軸として立ち返れる状態にしておきます。

創業期こそ経営理念が必要になる

「まだ一人で始めるだけだから、経営理念は後でいい」と感じるかもしれません。

しかし、創業期は決めることが多く、しかも判断材料が十分ではありません。商品名、価格、店舗やWebサイトの見せ方、SNSの発信、仕入先、協力者、顧客対応。小さな判断が積み重なって、事業の印象を作ります。

経営理念を先に言葉にしておくと、判断の軸ができます。

迷いやすい場面経営理念があると決めやすくなること
商品を増やすか迷うその商品が届けたい価値に合うか
価格を下げるか迷う安さで選ばれたいのか、品質で選ばれたいのか
SNSで何を発信するか迷うどんな人に、どんな姿勢を伝えるか
依頼を受けるか迷う自分の事業が大切にする顧客に合うか
人を採用するか迷うどんな価値観を共有したいか

経営理念は、事業が大きくなってから作るものではなく、創業期の小さな判断を支えるために作るものです。

ミッションは存在意義を表す

ミッションは、事業が果たす使命や存在意義を表す言葉です。

言い換えると、「誰に、どんな価値を届けるために存在するのか」です。「アイデアの整理」で整理したWILL・CAN・NEEDのうち、WILLとNEEDが特に関係します。

考える問い書き出すこと
誰の役に立ちたいか顧客、地域、業界、特定の悩みを持つ人
どんな困りごとを解決したいか不便、不安、面倒、選びにくさ、学びにくさ
自分はなぜその課題に取り組みたいか経験、価値観、過去の原体験、問題意識
顧客にどんな変化を届けたいか安心、便利、成長、楽しさ、健康、時間の余裕

ミッションは、長い文章にする必要はありません。まずは、「私たちは、〇〇を通じて、〇〇な人に、〇〇を届ける」の形で書くと考えやすくなります。

例:

事業ミッションのたたき台
ベーカリー毎日の食卓に、安心して選べる焼きたての楽しさを届ける
子ども向け教室子どもが自分で考え、できたと感じる学びの場をつくる
訪問サービス外出が難しい人の暮らしに、安心して頼める手助けを届ける

最初は抽象的でもかまいません。後で具体的な顧客や商品と照らし合わせながら、伝わる言葉に整えていきます。

ビジョンは目指す姿を表す

ビジョンは、事業や店舗が目指す理想の姿や中長期的な目標です。

ミッションが「なぜ存在するのか」を表すなら、ビジョンは「どこを目指すのか」を表します。ビジョンには、顧客にとっての理想像と、事業として達成したい目標の両方を入れられます。

ビジョンの種類内容
顧客から見た理想像どんな存在として思い出されたいか困ったときに最初に相談される店
地域・社会から見た理想像どんな役割を担いたいか地域の子育て世帯を支える拠点
事業としての目標いつまでに何を達成したいか1年以内にリピート顧客を100人つくる
中長期の展開将来どこまで広げたいか3年以内に法人向けサービスを始める

ビジョンは、夢だけでも数字だけでも不十分です。理想像と行動に移せる目標を組み合わせると、事業計画につながりやすくなります。

数字を入れる場合は、あとで「資金計画」や「収支計画」と照らし合わせます。この段階では仮置きでかまいません。

バリューは行動指針を表す

バリューは、ミッションやビジョンを実現するために大切にする価値観や行動指針です。

バリューは、実際の行動に落とし込める言葉にします。「お客様を大切にする」だけでは広すぎるため、どんな場面でどう行動するのかまで考えます。

抽象的な言葉行動指針に近づけた言葉
丁寧な接客をする初めての人にも専門用語を使わず、選び方を説明する
地域を大切にする月に1回、地域の声を聞く機会をつくる
品質を大切にする仕入れ基準を決め、説明できない商品は扱わない
学び続ける毎月1つ改善テーマを決め、サービスに反映する
早く対応する問い合わせには原則24時間以内に返信する

バリューは、創業者本人だけでなく、将来スタッフや外部パートナーと共有する言葉にもなります。短く、具体的で、行動に使える表現を目指します。

ミッション・ビジョン・バリューをつなげる

ミッション、ビジョン、バリューは別々に作るものではなく、つながっていることが大切です。

要素答える問い役割
ミッションなぜ存在するのか事業の目的を示す
ビジョンどこを目指すのか事業の理想像と目標を示す
バリューどう行動するのか日々の判断基準を示す

たとえば、ミッションで「高齢者の暮らしの不安を減らす」と言いながら、ビジョンが若年層向けの流行サービスになっていると、一貫性が弱くなります。バリューが「わかりやすく説明する」であれば、Webサイトやチラシ、接客の言葉も専門用語を減らす必要があります。

経営理念は、言葉を作って終わりではありません。商品、価格、集客、接客、採用、資金計画とつながっているかを確認することで、事業の軸になります。

関係者に伝わる言葉へ整える

経営理念は、自分の中でしっくりくることも大切ですが、相手に伝わることも大切です。

伝わる経営理念にするために、次の3つを確認します。

確認すること見直しのポイント
具体性があるか誰に、どんな価値を届けるのかが見えるか
自分らしさがあるかアイデア整理で見つけた経験や強みとつながっているか
行動に使えるか商品、接客、発信、採用の判断に使えるか

逆に、次のような言葉は見直しが必要です。

  • どの会社にも当てはまる言葉だけになっている
  • 顧客が誰なのか見えない
  • きれいな言葉だが、何をする事業か伝わらない
  • 創業者の経験や強みとつながっていない
  • 行動指針が抽象的で、日々の判断に使いにくい

経営理念は、一度で完成させなくてかまいません。最初はたたき台を作り、経営戦略、マーケティング、ビジネスモデルを考える中で磨いていきます。

創業計画書に転記できる形にする

経営理念で整理した内容は、創業計画書の「創業の動機」や「自由記述欄」などに使えます。

ミッション、ビジョン、バリューという言葉は、創業計画書の項目名そのものではありません。ここでは、創業の動機やセールスポイント、販売戦略、自由記述欄に使える言葉を整理するための考え方として扱います。

経営理念で整理する内容創業計画書につながる項目
なぜこの事業を始めるのか創業の動機
どんな経験や問題意識があるか創業の動機、経営者の略歴等
誰にどんな価値を届けるか取扱商品・サービス、セールスポイント
どんな姿を目指すか自由記述欄、事業の見通し
どんな行動を大切にするか自由記述欄、販売戦略、採用方針

創業計画書にそのまま長く書く必要はありません。まずは理念の材料を残し、計画書では相手が読みやすい長さに整えます。

次は選ばれる理由を具体化する

経営理念が見えてきたら、次はその理念を事業の強みや戦略に落とし込みます。

どれだけ良い理念があっても、顧客に選ばれる理由が具体的でなければ、事業として伝わりにくくなります。次のページでは、自社、顧客、競合の3つの視点から、強みや立ち位置を整理します。

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