創業準備ガイド

創業前の数字づくりでは、「いくら売れるか」だけでなく、「自分はいくら残したいのか」を先に考えることが大切です。個人事業主の場合、事業から残る利益が生活の原資になります。ただし、その利益から税金、社会保険、借入返済、将来の備えも考える必要があります。

このページでは、会社員の給与と個人事業主の利益の違い、生活費から必要利益を積み上げる考え方、単独経営と家庭持ち経営の目標例、必要売上への逆算方法を整理します。金額例はあくまで考え方の例であり、家族構成、地域、借入、業種、住宅費、社会保険料、税額によって調整します。

このページでわかること

  • 個人事業主の収入目標を売上ではなく利益から考える理由
  • 会社員時代の給与と同じ金額では低く見積もりやすい理由
  • 生活費、税金、社会保険、返済、再投資を分けて必要利益を出す考え方
  • 単独経営と家庭持ち経営で目標水準を分ける考え方
  • 目標利益から必要売上を逆算する流れ

個人事業主の収入目標は売上ではなく利益から考える

個人事業主の収入目標は、「売上をいくらにするか」ではなく、「事業からいくら利益を残すか」から考えます。

売上が大きくても、仕入、材料費、家賃、広告費、外注費、借入の利息などが大きければ、生活に回せるお金は少なくなります。国税庁の説明でも、事業所得は総収入金額から必要経費を差し引いて計算する考え方です。

事業所得の目安 = 売上 - 売上原価 - 経費

ここでいう事業所得や利益は、会社員の「手取り」と同じではありません。実際には、税金、社会保険、借入返済、生活費、予備資金、設備更新なども考える必要があります。

見る数字意味注意点
売上商品やサービスの販売で得る金額売上だけでは生活できるか判断できない
経費事業に必要な支出家事上の費用は原則として経費にならない
利益・事業所得売上から経費を差し引いた金額税金や社会保険、生活費の原資になる
手元資金実際に使える現金入金時期、返済、税金の支払いで変わる

まずは、目標売上ではなく、必要な利益を決めることから始めます。

会社員時代の給与と同じ金額では低く見積もりやすい

会社員時代の給与と同じ金額を、個人事業主の収入目標にそのまま置くと、実質的には低く見積もりやすくなります。

会社員の場合、社会保険料の会社負担、有給休暇、雇用の安定性、福利厚生、退職金制度などが見えにくい形で支えになっています。一方で個人事業主は、売上の変動、休業時の収入減、設備更新、将来の備えを自分で見込む必要があります。

見落としやすいもの個人事業主の目標利益に影響する理由
税金・社会保険所得税、住民税、国民健康保険、国民年金などを自分で考える必要がある
休んだ日の収入体調不良、家族事情、閑散期で働けない日が収入減につながりやすい
退職金・老後資金会社の退職金制度の代わりに、自分で備える必要がある
設備更新パソコン、車両、内装、機械、什器などの更新費用が将来発生する
借入返済返済元金は経費ではないが、毎月の資金繰りには影響する
予備資金売上減少、修繕、事故、病気などへの余裕が必要になる

そのため、会社員時代の額面給与と同じ利益を目指すだけでは、生活と事業を守るには不足することがあります。1.5倍、2倍といった倍率を先に決めるよりも、生活費や返済、税金、将来の備えから積み上げて考えます。

目標利益は生活費・税金・保険・返済・再投資に分ける

必要利益は、生活費だけでなく、税金、社会保険、返済、予備資金、再投資を分けて考えます。

必要利益の目安 = 生活費 + 税金・社会保険 + 借入返済 + 予備資金 + 再投資
項目内容確認すること
生活費家賃、食費、通信費、教育費、住宅ローン、保険など毎月いくら必要か
税金・社会保険所得税、住民税、事業税、国民健康保険、国民年金など所得や地域で変わるため概算で見込む
借入返済借入金の元金返済経費ではないが現金は出ていく
予備資金売上減少、修繕、病気、休業への備え最低でも数か月分を意識する
再投資広告、設備更新、研修、人材採用、システム改善など将来の売上や効率を作る費用

創業前は完璧な税額計算までできなくても構いません。ただし、税金や社会保険をゼロとして考えると、開業後に手元資金が足りなくなりやすくなります。

生活費まで含めた資金計画の考え方は、事業資金だけでなく生活費まで含めて資金計画を作る理由 でも確認できます。

1年目・3年目・5年目以降で目標を分ける

収入目標は、最初から最終目標だけで考えず、1年目、3年目、5年目以降のように段階を分けます。

創業1年目は、認知、顧客づくり、業務の型づくりに時間がかかります。3年目は、顧客基盤や紹介、リピートが育ち始める時期です。5年目以降は、労働時間を増やすだけでなく、利益率、単価、仕組み、人材、設備更新まで考える段階になります。

時期目標設定の考え方注意点
1年目生活を守りながら、事業を続けられる最低ラインを確認する売上が安定しない前提で見る
3年目顧客基盤を作り、返済や税金を含めても資金が回る水準を目指す固定費を増やしすぎない
5年目以降将来の備え、設備更新、人材育成、次の投資まで考える労働時間だけで売上を増やさない

年数はあくまで目安です。業種、地域、開業規模、家族構成によって、目標の上がり方は変わります。

単独経営なら生活維持から段階的に上げる

独身、または一人経営で家計負担が比較的小さい場合でも、最初から生活費だけを見ればよいわけではありません。

下の表は、借入返済の負担が小さく、過大な設備投資をしていない小規模事業を想定した、事業所得の目安例です。税金や社会保険を差し引いた手取りではありません。

時期事業所得の目安(月間)事業所得の目安(年間)目標設定の考え方
1年目約17万〜25万円200万〜300万円最低限の生活と事業継続を優先し、失敗しながら学ぶ時期
3年目約33万〜50万円400万〜600万円顧客基盤を作り、返済や税金にも耐えられる水準を目指す
5年目以降約58万円〜700万円〜労働時間を抑えつつ利益率を確保し、次の投資も考える

1年目から高い所得を目指すこと自体は悪くありません。ただし、達成できなかったときに資金が尽きる計画では危険です。最低ライン、標準ライン、理想ラインを分けて考えます。

家庭持ち経営は固定生活費と予備資金を厚めに見る

配偶者や子どもがいる場合は、生活費、教育費、住宅費、保険、車の維持費など、毎月の固定支出が大きくなりやすくなります。

家庭持ち経営では、本人の生活費だけでなく、家計全体を守れるかを見ます。配偶者の収入がある場合でも、創業後しばらくは売上が安定しない可能性があるため、予備資金を厚めに見ます。

時期事業所得の目安(月間)事業所得の目安(年間)目標設定の考え方
1年目約25万〜33万円300万〜400万円家計維持を優先し、夫婦共働きや貯蓄で支えるケースも想定する
3年目約50万〜67万円600万〜800万円教育費、住宅費、税金、返済を見込める安定ラインを作る
5年目以降約75万円〜900万円〜将来の備え、人材育成、設備更新、2店舗目などの投資を考える

この表は「この金額を必ず目指すべき」という意味ではありません。家庭の支出、住む地域、借入額、業種、働ける時間によって、必要な水準は大きく変わります。

目標利益から必要売上を逆算する

必要利益が見えたら、次は必要売上を逆算します。

利益だけを決めても、どれだけ売ればよいかが見えなければ行動に落とせません。固定費と変動費を分け、限界利益率を使うと、目標利益を達成するための売上高を概算できます。

目標利益を達成する売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率

たとえば、月40万円の目標利益を残したい事業で、固定費が月60万円、限界利益率が50%なら、必要売上は月200万円です。

(固定費60万円 + 目標利益40万円) ÷ 50% = 必要売上200万円

この計算は、細かい会計処理をするためではなく、「その目標は現実的か」を見るためのものです。必要売上が高すぎる場合は、価格、原価、固定費、営業日数、客数、提供方法を見直します。

損益分岐点から必要売上を逆算する方法は 損益分岐点、売上予測の根拠作りは 売上高の計算方法 で確認します。

高すぎる目標より続けられる水準から調整する

収入目標は、高く掲げればよいわけではありません。

目標が高すぎると、開業直後から無理な広告費、過大な設備投資、長時間労働、値引き販売に頼りやすくなります。反対に、目標が低すぎると、税金や社会保険、返済、将来の備えを見落とし、事業は続いているのに生活が苦しくなることがあります。

目標が合わないとき見直すこと
必要売上が高すぎる固定費、家賃、設備投資、借入額、開業時期を見直す
利益が残らない価格、原価、メニュー構成、外注費、広告費を見直す
生活費が足りない家計支出、開業時期、配偶者収入、予備資金を確認する
労働時間が長すぎる単価、予約枠、提供方法、業務効率を見直す
将来投資ができない設備更新、研修、採用、広告の予算を別に見込む

目標は一度決めて終わりではありません。創業前、開業直後、半年後、1年後で見直し、現実の数字に合わせて調整します。

まず自分の最低ラインを書き出す

最初にやることは、理想年収を決めることではなく、最低限守りたい生活と事業のラインを書き出すことです。

次の順番で、月額の数字を仮置きします。

順番書き出すもの
1毎月の生活費住宅費、食費、通信費、教育費、保険料
2税金・社会保険の概算所得税、住民税、国民健康保険、国民年金など
3借入返済返済元金と利息、返済開始時期
4予備資金売上減少、修繕、病気、休業への備え
5再投資広告、設備更新、研修、採用、システム改善

ここまで出すと、「最低限必要な利益」「標準的に目指したい利益」「理想として伸ばしたい利益」を分けやすくなります。

次は収支計画で手元資金を確認する

収入目標と必要利益を仮置きしたら、次は収支計画に進みます。

収支計画では、売上、原価、経費、利益を整理し、借入返済や生活費を差し引いた後に、手元にお金が残るかを確認します。

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